2022年春に出てきたモバイルPC用プロセッサー、AMD社の Ryzen 7 5825U と Ryzen 5 5625U に関して、調べた情報をまとめておきます。同プロセッサー搭載機をお考えの方は、ご参考にどうぞ。
調査に使った機体と調べ方
Dellの「Inspiron 16 5625(AMD)」及び「Inspiron 14 5425(AMD)」で計測しています。
機体が大きい方が放熱効率が上がって有利だとは思いますが、極端な差にはならないと思いますので、特に修正せず一覧で並べています。
それぞれメモリ8GB×1(シングル)時と、16GB×2(デュアル)での計測しています。
Inspiron 16 及び 14 のシリーズは、Ryzen 7 でもメモリ8GBモデルがありますし、コストを抑えることを考えるなら、Ryzen 5 を購入しておきつつ、裏蓋を開けて16GBにしたい人もいらっしゃると思います。このDellの二機種はいずれもメモリスロットが二つあり、自由に換装できるので、中を弄りたい人にはオススメの機体です。
なお、これらの機体では、My Dell のアプリ内からサーマル設定を変えることができるのですが、超高パフォーマンスにしてもほとんど違いがない数値になりました。それでいてファンの音が大きくなりがちなので、結果、デフォルトの最適化のまま使うのがオススメと考え、そのように計測しています。
固定電源ありきで使わないこともあるかもしれませんので、念のためAC電源を抜いて、Windows11の標準的な電力設定で一つ落としたバランス時にどうなるのかも計測しています(グラフ内にある “最も高いパフォーマンス” とはWindows11でいうところの “最適なパフォーマンス” のことです)。
ただ、それらを全て入れると超長いグラフになることから、別記事「PCMark10による「AMD Ryzen」と「Intel Core」の性能比較まとめ」にまとめました。当記事ではあくまでもAC電源ありき、最適なパフォーマンスのみでの計測結果です。
計測は各二回以上を行い、良かった数値を掲示。あまりにも低すぎたり、高すぎる異常値が出た時には計測しなおし、としています。計測しなおしても変わらなかった時には、そういうものとして、そのまま表記しています。その結果、けっこう逆転現象が起きるグラフもありますが、入力ミスなどではなく、リアルな数値そのものです。
念のため、Windows11の更新を挟んだ後、AMD社のプロセッサーのドライバーを最新更新後の計測になります。
同様に最新のプロセッサー性能を引き出したい方は、こちらから更新情報をどうぞ。
快適さを測る PCMark10
全体的な快適性能を計測したもの。
PCの基本性能。
アプリケーションの起動速度。
オンラインビデオ(Zoom や Teamsなど)の処理能力。
ブラウジング(ネット)の処理能力。
ビジネスアプリ全般の性能。
Excel や Access などのスプレッドシート系アプリの挙動。主に関数計算能力。
Wordなどのワープロソフトの挙動。
デジタリックのグラフィック創作能力を表した数値。
写真のレタッチの強さを表した数値。
レンダリング変換する際の強さを表している数値。
動画編集能力を表している数値。
快適さを計測する PCMark10 のスコアです。
どこまでの作業をするかで求める数値が変わってきますが、基本的にトータルスコアで4000もあれば日常的な使い方で使いづらいということはなく、快適そのものです。
前回、Ryzen 5 5500Uにメモリ16GBにした時に「この値段で5000を超えてSUGEEEE!!」と言ってたものですが、今回のRyzen 5 5625U ではメモリ8GB で 5198 をマークしました。もし、Ryzen 7 5825U まで選べば、昨年の夏から続いていた人気機種HPの「Pavilion Aero 13-be」の最上位を超えます。いよいよ夢の6000超え。
グラフを見て頂くと分かりますが、Ryzen 5 5625U にメモリ16GBに増設すれば、それだけでZEN2最上位の Ryzen 7 5700U を超えます。同じように、Ryzen 7 5825U では、メモリ8GB×1(シングル)だと性能を出し切れず、おおよそ Ryzen 5 5625U にメモリ16GB(デュアル)と近似値になります。
つくづく日進月歩の世界です。
この辺りの数値では Intel Core でも第11世代Core『TigerLake』では敵わなくて、Core i7-1195G7でも少し足りません。ここはもう第12世代Core『Alder Lake』の登場を待ちたいところです。
その他の数値を見ていくと、特にアルパカが重要だと思っている「App Start-up Score」では、Ryzen 7 5825U が Ryzen らしからぬ高スコアをたたき出しました。実際、キビキビとした良い動きが体感して感じられます。実に快適。
前回の Ryzen 5 5500U ですと、10000前後からだったのに対し、今回はRyzen 5 5625U でも12000前後と高スコアでした。ZEN3 のポテンシャルがいかに高いのかが分かります。
他を見ていくと、「Productivity」では Ryzen 5 5600U、Ryzen 7 5800U に譲ったものの、「Spreadsheets Score」ではRyzen 5 でも、メモリ8でも文句なしに良いスコアをたたき出しました。おそらく、この価格帯のモバイル向けでは、対Excel、対Access用の関数計算用としては最強ではないかと思います。
追記:第12世代Core『アルダーレイク(Alder Lake)』はRyzen Zen3 を超えてきました
対Excelの関数計算として見ると、第11世代Core『タイガーレイク(TigerLake)』ではRyzen Zen2 あたりの足元にも及ばない程度だった Intel Core ですが、第12世代Core『アルダーレイク(Alder Lake)』になったことで、一気に改善されて Zen3 さえ遥かに超えてきました。ただしPプロセッサーなら、です。Uだと良い勝負になる、というくらい。
詳しくは「Office系アプリを多用する人がPCを購入する前に読む記事」をお読み下さい。
他、「Digital Content Creation」系の能力も軒並み高いですが、やはり Ryzen の苦手としている「Video Editing Score」は小幅な上昇に留まりました。Adobe Premiere Proで動画造りたい、などの時には Intel Core の方が向いています。
「Photo Editing Score」も第11世代Core『TigerLake』には一歩及びませんが、しかし、ここまでの数値が出ているようなら、そうそう使いづらいほど辛い動きにはなりません。
ざっくりと向き、不向きをまとめると以下のようになります。
AMD | Intel | |
---|---|---|
アプリの立ち上げ | ||
オンライン会議 | ||
Webブラウジング | ||
ワープロ系 | ||
Excel系 | ||
写真加工 | ||
動画編集 | ||
レンダリング | ||
備考 | Adobe系がいまいち。 アプリの相性問題あり。 |
アプリの相性問題はほぼないが、作業によって相性の良し悪しがある。 |
※あくまでも傾向として把握するための目安です。
Office系アプリの実測データ
こちらでは、「Microsoft 365 Personal(旧Office 365 Solo)」を使用した際の挙動を計測したものをグラフ化しました。
基本的に「Office系アプリを多用する人がPCを購入する前に読む記事」にあるものと同じものですが、こちらでは、電源設定が最適なパフォーマンス時でAC電源に繋げている状態のみで見やすくしています。
手計測ですので、コンマ数秒の差は誤差の範囲とお考え下さい。
ですが、多少の誤差を差し引いてもRyzenシリーズのExcelでの計算能力の高さが際立っており、これはPCMark10の「Spreadsheets Score」にもある通り。この辺の得意作業は電源設定に関係なく早いです。ただ、あくまでも関数計算の能力に特化しているのであって、コピーや置換などの編集系能力はどっこいか、Intel Coreの方が早くなることが多いです。
パワポ関連はあまり得意ではないようで、特に電源設定が落ちた際には影響を多く受けます。
ちなみにExcel・コピーで Core i7-1185G7 が0秒となっているのは間違いではなく、そのままの数値です。コピーといっても張り付ける方ではなく、クリップボードに取り込む際の待機時間を計測していたのですが、待機時間がなかったため、このようになりました(たまにそういったプロセッサーがあります)。
Office系の作業を簡易的にまとめると以下の表に集約されます。
Word、Excel、PowerPointの挙動ざっくりまとめ | ||
---|---|---|
Intel | AMD | |
Excel・コピー | ||
Excel・置換 | ||
Excel・計算 | ||
Word・PDF化 | ||
PowerPoint・コピー | ||
PowerPoint・PDF化 |
※基本的に同じグレード同士(i7に対するRyzen7など)で比較し、全体的な傾向として記載しています。
※価格帯では比較していません。コスパで言うならオススメはRyzen一択になります。
シングルコア、マルチコアの性能 CinebenchR23
シングルでは第11世代Core『TigerLake』のi7-1165、及び i7-1195には一歩及びませんが、それがPCMark10でいう「App Start-up Score」にも表れている通りです。
もっとも、ここまでの数値なら使いやすいことは間違いないので、特にIntel機よりも価格差があって安く買えるなら、AMD機の方が割安と言えます。もちろんマルチは言うに及ばず。
「Inspiron 14 5425(AMD)」Ryzen 5 5625U 搭載機 | ||
---|---|---|
シングルコア性能 | マルチコア性能 | |
メモリ16GB(デュアル) | 1382 | 7978 |
メモリ8GB(シングル) | 1368 | 7688 |
「Inspiron 14 5625(AMD)」Ryzen 7 5825U 搭載機 | ||
---|---|---|
シングルコア性能 | マルチコア性能 | |
メモリ16GB(デュアル) | 1442 | 9656 |
メモリ8GB(シングル) | 1439 | 9033 |
ネットブラウジングの速度 WEBXPRT3
主要三大ブラウザでのネットブラウジングの速度を比較しました。
WEBXPRT3の場合、180くらいが一つの目安で、それ以下になると体感してすぐに分かるほど緩慢な動きになります。200以上になると、まずまずの動き。250で快適。300超えはすこぶる快適、といった感覚です。
電源設定によるパフォーマンス低下が最も大きくなるのが、このブラウジングの速度であり、見て頂くと分かるように、Ryzen 7 5825U に メモリ 16GBであっても電力設定が落ちた状態では、一番得意なFirefoxでもようやく185、というくらいまで遅くなります。
モバイル機として使うことを考えるのであれば、これらの数値が足かせとなりますが、そうした使い方が多いかどうかが Intel Core にするかどうかの分かれ目となる部分です。
PassMark
メモリを16にした時に、約一割ほどCPU MARKが上昇するのが分かります。
また、2Dではさほどでもありませんが、3D系のグラフィック能力が倍近くに跳ね上がっているのが分かります。デュアルチャネルの恩恵が最も大きく出る部分です。
ゲーム系ベンチマーク
ゲームに関してはここにあるものしか調べていませんが、計測した限りでは従来のZEN3と同等か、低い数値ばかりになりました。
特に Ryzen 7 5825U が思ったほどのスコアを出せず、Ryzen 5 5625U にも届かない、という事態に。
同じZEN3でも Ryzen 5 5600U や Ryzen 7 5800U の方が半年以上前に出されていますが、良いスコアになることが多かったです。 ひょっとしたら設定の違いによるものかと、AMD Radeon SoftWare で eスポーツ用にしたり、電源マネージャのサーマル設定を超高にしたり試しましたが、ほとんど変わりませんでした。
調べているタイトルが少ないので言い切ることはできませんが、いつも高めにチューニングしてくるDellの機体でこれですから Ryzen 7 5825U と Ryzen 5 5625U では、この辺りのゲームは向いていないのだと思います。
こうしたものはタイトルによって向き不向きが分かれます。
目安となる切り分け方としては、ドラクエXやマビノギ、メイプルストーリーなどの軽量ゲームをやるくらいなら大差ないので良いと思いますが、それ以上のアクション性の高いポリゴンを動かすゲームでは、同じZEN3でも Ryzen 7 5800U や Ryzen 5 5600U でも変わらない。またはその方が向いている、と言えそうです。
以下、比較用として、「HP ENVY x360 13-ay」や「Pavilion Aero 13-be」で計測したスコアも掲載しておきます。
軽い:ドラゴンクエストX
※最高品質、FHD、フルスクリーン設定にて計測。
Inspiron 16 5625(AMD) | Ryzen 7 5825U | |
---|---|---|
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
9691 | 4839 | |
Inspiron 14 5425(AMD) | Ryzen 5 5625U | |
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
9915 | 5010 | |
HP Pavilion Aero 13-be | Ryzen 5 5600U | |
メモリ16GB | メモリ8GB(デュアル) | |
9543 | ||
HP ENVY x360 13-ay | Ryzen 5 5600U | |
メモリ16GB | メモリ8GB(デュアル) | |
NO DATA | 10062 |
少し重い:FF-XIV 漆黒のヴィランズ
※高品質、1920 × 1080、ウィンドウにて計測。
Inspiron 16 5625(AMD) | Ryzen 7 5825U | |
---|---|---|
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
2683 | 1410 | |
平均 17.8fps、最低 7fps | 平均 8.9fps、最低 5fps | |
Inspiron 14 5425(AMD) | Ryzen 5 5625U | |
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
2787 | 1396 | |
平均 18.5fps、最低 9fps | 平均 8.8fps、最低 6fps | |
HP Pavilion Aero 13-be | Ryzen 7 5800U | |
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
5024 | ||
平均 35.1fps、最低 15fps | ||
HP ENVY x360 13-ay | Ryzen 5 5600U | |
メモリ16GB | メモリ8GB(デュアル) | |
NO DATA | 2752 | |
平均fps: 18、最低fps: 8 |
少し重い:FF-XIV 暁月のフィナーレ
※高品質、1920 × 1080、ウィンドウにて計測。
Inspiron 16 5625(AMD) | Ryzen 7 5825U | |
---|---|---|
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
2826 | 1997 | |
平均 19.1fps、最低 13fps | 平均 13.3fps、最低 9fps | |
Inspiron 14 5425(AMD) | Ryzen 5 5625U | |
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
2849 | 1493 | |
平均 19.2fps、最低 11fps | 平均 9.7fps、最低 6fps | |
HP Pavilion Aero 13-be | Ryzen 7 5800U | |
メモリ16GB(デュアル) | ||
3007 | ||
平均 20.4fps、最低 13fps | ||
HP ENVY x360 13-ay | Ryzen 5 5600U | |
メモリ16GB | メモリ8GB(デュアル) | |
NO DATA | NO DATA |
重い:FF-XV WINDOWS EDITION
※標準品質、1920 × 1080、ウィンドウにて計測。
Inspiron 16 5625(AMD) | Ryzen 7 5825U | |
---|---|---|
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
1509(動作困難) | 829(動作困難) | |
Inspiron 14 5425(AMD) | Ryzen 5 5625U | |
メモリ16GB(デュアル) | メモリ8GB(シングル) | |
1538 (動作困難) | 889(動作困難) | |
HP Pavilion Aero 13-be | Ryzen 7 5800U | |
メモリ16GB(デュアル) | ||
1631(動作困難) | ||
HP ENVY x360 13-ay | Ryzen 5 5625U | |
メモリ16GB | メモリ8GB(デュアル) | |
NO DATA | 1527 (動作困難) |
最後に・まとめ
まだ少し調べ足りませんが、ひとまずの区切りとしてアップしておきます。
メモリの8、16GBを含めて調べていますが、改めてRyzenはデュアルチャネルにした時の伸びしろが高いと感じます。
しかし、逆を言えばデュアルチャネルでさえあれば高い性能を発揮するのであって、実は4GB×2枚組でも、かなり良いパフォーマンスを出す別機種も見当たります。
年数経ってOSの使用メモリが肥大化した後のことを考えれば、やっぱりメモリ16GBは捨てがたいのですが、そうはいっても、タスクマネージャーで見れば、4GB程度しか使っていない、というライトユーザーは多いです。そういう人には「ENVY x360 13-ay(AMD)」あたりが、メモリ8GBでもデュアルチャネルで10万以下から買えるものとしてはオススメです。
あとはやはり、電源設定を下げて使うかどうかで、固定電源ありきならRyzen機が。そうでないならCore機がオススメになってきます。
Ryzen 7 5825U と Ryzen 5 5625U に絞って言うなら、ゲーム系のベンチマークがイマイチな結果になっており、特に Ryzen 7 5825U が伸びなかったのが残念です。
RyzenにもCoreにも課題は多く、今後の両社の更なる開発に期待したいところです。
コメント
よろしくお願いします。64ギガと32ギガでは性能差が出ますか?
香川様
コメントありがとうございます!
そこまでの大容量を試せてはいませんので分かりませんが、機体の認識限界を超えなければ性能差は出るかもしれません。
もっとも、アルパカが試した範囲の使い方なら、メモリの増大よりもデュアルチャネルになっているかどうか、での違いの方が分かりやすかったです。
動画や写真のエンコード時では大容量の違いは出やすいので、そうした時に大容量メモリは良いと思います。
あとは重たいアプリをバンバン立ち上げ、ブラウザの多重タブが多くなってきた時、年数経ってOS重たくなってきた時なんかに重たくなりづらいと思います。
ただ、あくまでも認識するなら、という範囲です。
個別の機体でどこまで増設できるかは、機体によります。